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こちらではお初にお目にかかります。弁護士・元ロースクール教授、宮武嶺の社会派リベラルブログです。

自民党の改憲草案は立憲主義憲法ではなく、国民にさまざまな義務を押し付ける封建主義憲法だ。



 今の自民党改憲案は、谷垣幹事長佐賀総裁の時に作られたものですが、作ったのが安倍チルドレンですので、中身はアベ政治の集大成、いや真骨頂になっています。そして、それほど無残な自民党改憲案全体の中でも、直視がためらわれるほど悲惨なものの一つは、実は現憲法99条を改悪した新102条です。

 新旧の条項を見てみましょう。

自民 (憲法尊重擁護義務) 
第102条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。 

2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

 これを今の日本国憲法の99条と比べてみましょう。

現行憲法

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ

 自民党案では日本国憲法と違い、憲法を尊重する義務を負う主体に公務員を差し置いて、第一項でまず国民が含まれてしまっているのが、一目瞭然でお分かりになると思います。

 他方、日本国憲法では、憲法尊重擁護義務を負うのは公務員たちのみであって、国民は入っていません。戦前の経験に鑑みて、最も人権侵害の主体となりそうな公務員にこそ憲法を尊重し擁護する義務を課しているのです。

 これは、今の日本を代表する憲法学の基本書には必ず載っている、憲法がなぜ必要かという「立憲主義」の理解に関わっています。

(ロースクール生必携 高橋和之著 立憲主義と日本国憲法

 

 

 もともと、憲法は人々の人権を守るためにあります。憲法は自由の基礎法と呼ばれるのです。

 そして、例えば、国会は日本国憲法41条で「唯一の立法機関である」と規定されることによって、初めて立法権という権限が授けられます。これは憲法の授権規範性(権限を授ける規範=ルール)といいます。

 43条で「全国民の代表」とされる国会だからこそ、国民と同質だから人権侵害をする可能性は少ないだろう。だから、国民の人権を制約する可能性のある法律を作ることができると憲法は議会に立法権を授けたわけです。よくできていますよね。

 さて、国家機関は憲法から権限が授けられて初めて権限を得るわけですから、各国家機関は憲法から授けられた権限しか持ち得ません。たとえば、機動性ある内閣は行政権(65条)、政治から中立の裁判所は司法権(76条1項)が与えられていて、それしか行使できません。これを憲法の制限規範性(権限を制限する規範=ルール)といいます。

 憲法が制限規範性を持ち、最も国民の人権を侵害する可能性が高い国家機関の権力を制限することに、自由の基礎法たる憲法の本質があるのです。

 法律には国が国民に命じる側面がありますが(窃盗罪なら懲役10年とか)、それは国民が選挙で選んだ我々庶民と同質の中の者=代表者に作らせます。しかし、それでも法律が人権侵害をすることもありえます。

 そこで、一国の法的規範の中で憲法だけは、国民が国家に対して、「自由と人権を侵害するな。そのために国会は立法を、内閣は行政だけ持て・・・・」と命じる規範なのです。これを憲法の命令規範性(国民が国家機関に命令する規範=ルール)と言います。だから、人権を侵害する憲法違反の法律は裁判所で違憲無効とされます。

 つまり、下の二つの図のように、憲法は法律と逆向きに、国民から国家権力に向けられた規範=ルールなのですね。

 

 

 もちろん国民同士の人権侵害も多々あります。しかし、最も頻繁に起き、規模が大きく恐ろしいのは、強大な国家権力を背景にした国家機関による人権侵害です。

 ですから、立憲主義とは、国民が国家権力と言えども覆せない憲法を制定し、国家権力の権限を制限し、もって国家権力の濫用を防いで国民の自由と人権を守るという数百年にわたる人類の知恵です。ですから、このような国民の人権を守る「自由の基礎法」である憲法を尊重する義務は、国民に課されるわけはなくて、国家機関を担う公務員だけに課されるのです。

 このような自由の基礎法、憲法の制限規範性や授権規範性、命令規範性というのは、近代立憲主義における憲法の必要不可欠な要件です。1789年のフランス人権宣言16条が

「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもつものではない」

としているのは、憲法が国家権力の濫用を防いで人権を保障するという本質を意味しています。



 なお、では、今の憲法でも「第三章の「第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」「第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」などと、国民の義務が規定されているのはなぜでしょうか。

 実はこれらの義務規定に法的規範性はない=法律上の効力=強制力は生じないと考えられています。

 憲法上の国民の義務はいわば訓示規定で、具体的な法律の制定によって初めて国民の法的義務となります。憲法の国民の義務規定は努力規定と捉えると分かりやすいでしょう。

 たとえば、勤労の義務はその性質上法律上の義務にすべきではないので具体的な法律がなく、国民には働く法的義務は課されていませんよね。他方、納税の義務に関しては所得税法や消費税法などではじめて具体的な法的義務となっているのです。

 このように、立憲主義憲法では、下の図のように、憲法は国民が国家に対して命令し、義務付ける規範であり、徹頭徹尾、国民一般には法的義務が課されないのです。

 だからこそ、国民の中で日本国憲法99条所定の公務員の立場になったものだけは、権力を行使できる立場になった以上、同じ人間でも、権力濫用によって人権侵害の可能性が増しますから、彼らだけには憲法尊重擁護義務が課されるのです。

 この立憲主義の理解は憲法学の基礎の基礎なんですよ。我々の子供たちは公民でちゃんと勉強してます。



 ですから、公務員より前に、国民に憲法尊重擁護義務を課す安倍自民党の憲法改悪草案は、200年以上前の中世・封建時代に先祖返りしてしまっています。

 まさに、国際社会の常識である立憲主義に真っ向から反しているのです。

 1789年のフランス人権宣言に言わせれば、自民党改憲草案などでは、もはや「憲法を持つものではない」ということになります。

 明治政府が不平等条約の改定をもくろんで列強諸国に伍するために作った大日本帝国憲法でさえ、だからこそ形式的とはいえ立憲主義憲法の体裁をとっていました。ですから、さすがに、国民に憲法を順守せよなんて言う恥ずかしい条文はありません。この点では、自民党憲法は明治憲法にさえ劣ります。

 日本では、立憲主義とは何かも分かっていない自民党のような政党が「自主憲法制定」などと意味も分からず綱領に記載しつづけ長く政権を握っています。そして、こんな、世界の人に読んで頂くのが恥ずかしい改憲案をまとめようとしているわけです。

 我々がこんな政党に貴重な1票を投じて、こんな改憲などさせたら、世界の笑いものと言えるでしょう。それだけはなんとしても避けようではありませんか。

 

18世紀終わりのフランス人権宣言などに始まる近代立憲主義憲法はすべて、国民が国家に対して義務を与える立憲主義に則っています。

それ以前の封建主義憲法に帰ろうという自民党は数百年時間を元に戻すことになり、ひどすぎるので多くの憲法学者が今までにはなかったような抗議をしているわけです。

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