
彼女は弁護士。
自分の知らない間に先輩弁護士が「あいつならやりますよ」と安受けあいしてしまい、「この子はどうなる?」という法廷劇に出ることにされてしまった。
しかし、彼女は一言も文句を言わず、子どもの権利委員会でも微笑むばかり。
そんな彼女の家族が突然急病になり、彼女は本番前日までの練習に一回も出ることができなかった。
本番当日朝から行なわれているリハーサルにも姿を見せない。よほど、ご家族の状態が悪いのだろう。携帯もつながらない。
「大丈夫。彼女は来ます」と断言しながら、いざというときには私が代わりに彼女の役をやろう、と考え始めた、その瞬間、彼女は現れた。何気ない風で。後顧の憂いを見せることもなく。しかし、リハーサルは終了していた。
脚本を改めて読み込む彼女。たぶん、出入りのきっかけなどはほかの出演者から聞いてまわっているのだろう、私のところには全く質問にも来ない。
本番が始まった。
他のキャストと全く違和感がない。何度も練習しているメンバーと同じレベルの演技である。
気がつくと、芝居が終わり、パネルディスカッションが始まる前に、来たときと同じく、彼女は風のように去っていた。