Everyone says I love you !

こちらではお初にお目にかかります。弁護士・元ロースクール教授、宮武嶺の社会派リベラルブログです。

可愛い


 ロースクールで一番頑張っているのは、生徒さんより、実は事務局、次に教授陣ですね。

 新しい制度で、しかも、制度的に矛盾だらけ。研究者も弁護士もわがままな人が多い(含む私)。全国どこのローでも、院生さんの事務局への評価は低いですが、生徒には分からない苦労を事務局はしているのです。

 もともと法学部で教えておられた先生方は、ロースクールが始まって6年。もう、身も心もボロボロです。いわば、法学部時代のゼミを週5つも6つも持っているようなものですから、体が持つわけありません。私が親しくしていただいている関東のロースクールの研究者教員が留学を決められたので、どうしたのですか、と尋ねると、もう留学でもして研究に没頭しないとおかしくなりそうだ、っておっしゃるんです。
 研究者が研究できないロースクール制度、おかしいですよね。

 これも関東の超有名私立ローの実務家教員が言っていましたが、うちはとにかく研究者と実務家教員の仲が悪い、と。研究者教員が教授会で、実務家の教員に「なんであんたらが教授なんだ。俺たちが教授になるのに何十年かかったと思っているんだ」と言っちゃったそうです。

 それだけ疲れているんですよね。

 実務家教員も関学のように現役バリバリの実務家を持ってくると、売り上げが下がります。ロー開始初年度、売り上げ4割減ったという弁護士さえいます。これも全国的な現象でしょうね。とにかく、実務家教員でロー教授になるなんて人は教えることにも情熱的ですから、時間もエネルギーもとられ、弁護士業務に支障をきたし、収入も減っちゃうわけです(除く私)。


 今日はインフルエンザ後、初の授業でした。

 前回の授業で、「先生、うまくいった事件の話もしてください」と要望が出て、自分としてはうまくいかなかった事件を含めてむしろうまくいった事件の話をしていたつもりだったので、愕然。
 生徒さんから見たら、うまくいかなかった事件の話オンパレードになっていたのか、と、内心頭を抱えました。

 満を持して、2週間ぶりに教壇に立つと、すかさず、「なんで先生来てるんですか。信じられない!」との声がかかります。体調を気にしてくれてるんだなと思うと、「私たちに移ったらどうするんですか!?」と豪快な突っ込み。

 思わず爆笑してしまいました。

 授業中に弱ったのは、順番に質問をしていっていたら、一人の生徒さんが「わかりません」ときっぱりおっしゃるわけです。
『キミらなあ、新司法試験から口述試験がなくなってよかったなあ。とにかく先生になんか質問されたら、なんでもいいから答えを言ってみるんだよ。そしたら、それを手がかりにヒントを出してくれるから。わかりません、じゃあ、ヒントの出しようがないでしょう?
というと、さらに、きっぱりと、
「難しすぎて、さっぱりわかりません」
 その人も含めてみんなで大笑いになり、私が解説しました。

 生徒さんのリアクションはほんとうに可愛いです。年齢的には私に近かったり、年上の方もいらしたりするので、可愛いという表現はおかしい感じもしますが、とにかく、生徒さんは実に面白くて可愛い。

 それがあるから、事務局も研究者も実務家もまだ踏ん張れるんでしょうね。生徒が可愛いから何かしてあげたくなる、そういう気持ちが全国のローの先生たちには必ずあると思います。
 たとえば、生徒さんから見てたとえば事務局が嫌らしく見えていたとしても、合格したという報が届くと、事務局内に歓声が沸き起こり、拍手の渦になるのが、合格発表直後です。大人の喜怒哀楽は私のように分かりやすい人の方が少なくて、もっと、秘めたるものなんです。

 私も他の先生ほどがんばっていませんが、そろそろロー教授の仕事もへばってきてます。だけど、予備校講師とはまたちがった、なんとも言えない歓びがあるのもまた事実ですね。